倩霞(二)
林青は手の一つ一つをじっくり見たのだが、どれもほっそりとして、玉を刻んだよう。倩霞の手を見分けるのは、至難の業であった。
その時、倩霞が左手の薬指の爪を二寸あまり伸ばしていたことを思い出した。そこで、もう一度、手を見て回ると、十六番目の手の爪が長かった。これこそ倩霞の手だ、と思った林青は筆でその名を記して耿精忠に報告した。耿精忠が確かめると、果たして倩霞であった。
「どういうことだ?」
耿精忠は倩霞に手を出させた。すると、左手の薬指の爪だけが長い。耿精忠は大笑いした。
「目印があったのか。これでは運試しにはならぬわ。よい、今日は下がれ。明日、やり直しだ。今度はとびきり難しい方法を考えておくからな」
林青は落胆して、耿精忠の前を退いた。
寓居に戻った林青は明日の成功を仏に祈った。その夜、彼は夢を見た。一人の下女が白い絹の切れを林青に渡した。切れの紋様は川の字をなしていた。受け取ったところで眼が覚めたのだが、さっぱり意味がわからない。寝つかれないまま、夜明けを待った。
林青が顔を洗っていると、耿精忠の使いが呼びに来た。林青は身づくろいをして王府へ急いだ。
耿精忠は書斎で林青を待っていた。
「また、幕を張っておいたぞ。運試しをして来い」
宦官の案内で通された広間には昨日のように錦がめぐらされていた。昨日とちがうところは、穴から手の代わりに白い足が出ていたことであった。
見たこともない光景に、林青は真っ赤になって広間から飛び出しそうになった。それを宦官がひきとめた。
「王の仰せで、手では何か合図をするかもしれぬゆえ、今度は足で選ばせることにしました。どの足も目印になるようなものはありません。爪の長さは同じです。さあ、じっくりお選びなされよ」
林青はやむをえず、順々に足を見て回ることにした。どの穴からも白い脛(はぎ)がすんなりと伸び、なめらからな踵(かかと)と薄紅色の爪先が目にまぶしかった。
(つづく)
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