人影

宜興(ぎこう、江蘇省)の陳宰冕(ちんさいべん)という人が富陽(ふよう、浙江省)の旅籠に泊まった。


夜、灯りを消して寝ようとすると、壁に人影が映って操り人形のように動いた。


陳宰冕は驚いて、枕を壁に投げつけた。旅籠の主人が物音を聞きつけて部屋を様子を見に来た。陳宰冕から話を聞くと、何も言わず、灯りをつけただけであった。


翌日、あらためて陳宰冕が主人に昨夜のことをたずねると、


「数日前、旅の人形使いがあの部屋に泊まって、死んだのです」


とのことであった。



(宋『ケイ車志』)



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