2012-04-01から1ヶ月間の記事一覧

それ

宋の元嘉元年( 424)のことである。南康(なんこう)県(江西省)の区敬之(おうけいし)が息子とともに小舟で県城から川をさかのぼり、小さな谷川の奥深くに入り込んだ。谷は険しく、人がまだ足を踏み入れたことのないようなところであった。日が暮れたの…

晏家の乳母

晏元献(あんげんけん)の家に燕(えん)氏という年老いた乳母がいた。晏家に仕えて数十年になり、家族から丁重に扱われていた。 燕氏が死んだ後も晏家では季節ごとにその霊を祀っていた。ある時、燕氏が家族の夢に現われてこう言った。 「皆様のおかげで、…

飛雲渡

温州(浙江省)の瑞安(ずいあん)に飛雲渡(ひうんと)という渡し場がある。激しい風浪がしばしば船を覆し、多くの人命が失われた。 ここ瑞安に一人の少年がいた。その行ないは奔放不羈(ほんぽうふき)で何物にもとらわれなかった。 かつて少年は占い師に…

芭蕉

蘇州に馮漢(ふうかん)という学生がいた。石碑巷(せきひこう)の近くに小さな書斎を構えていたのだが、その中庭にはとりどりの花や木が植えてあり、なかなかに見るものがあった。 ある夏の夕暮れ、風呂上がりの馮漢が腰掛に坐って涼んでいると、どこからか…

幽霊屋敷

献県(河北省)の東にある淮鎮(わいちん)に、馬氏が住んでいた。この馬氏の家で、ある日、突然、奇妙なことが起こるようになった。石や瓦が投げ込まれたり、不気味なすすり泣きが聞こえたり、誰もいないところから火が出たり、という奇怪な現象が一年あま…