2010-05-01から1ヶ月間の記事一覧

董知事

福建某県の知事、董(とう)なにがしは貪欲きわまりなかった。下僕の某は取り次ぎ役として、利益を貪っていた。 ある日、董知事は、下僕を連れて農村へ租税を取り立てに行った。途中まで来たところで、下僕が大声で叫んで馬から落ちた。見れば、左足が切られ…

特殊能力

夏侯弘(かこうこう)は特殊能力を持っていた。彼は幽鬼を見ることができたのである。見るだけでなく、会話することもできた。もっとも、これは本人の言である。 ある時、鎮西将軍謝尚(しゃしょう)の馬が突然、死んでしまった。謝尚はこの馬をたいそう可愛…

西湖の尼僧

臨安(りんあん、杭州)にたいそう美しい妻を持つ役人がいた。一人の若者がひょんなことからこの妻に懸想(けそう)し、毎日、一目その姿を拝もうと、役人の家の向かいにある茶店に通うようになった。日がな一日茶店に坐り込み、役人の門が開くたびに、道に…

童謡

由拳県(ゆうけんけん、浙江省東北部)に湖がある。晴れた日には水底に城壁に囲まれた街の姿を見ることができる。また、この湖の北六十里の伊莱山(いらいさん)の西南に神母廟がある。簡素な石室があるだけなのだが、廟の前の石には引っかいたような跡があ…

逸楽の果て

江右(江西省)の赫応祥(かくおうしょう)は国子監(こくしかん)の学生となり、家族を連れて都に移り住んだ。風采(ふうさい)がすぐれ、自分でも放蕩者を気取って色事こそ我が命と思っていた。勉強そっちのけで遊郭にしばしば通い、名だたる妓楼で足を踏…

オウ涛

汝南(じょなん、河南省)の人、オウ涛は古典を学び、道術を好んだ。旅に出て、ブ州(浙江省)義烏(ぎう)県に居を定めた。 一か月あまり経ったある夜、どこからか娘が二人の小間使いを連れて訪ねてきた。小間使いの一人が言った。 「こちらは王氏のお嬢様…

侠僧

唐の建中年間(780〜783)初めのことである。 韋生(いせい)という人が家族を連れて汝州(じょしゅう、河南省)への路を急いでいた。家族には婦女子が多く、また多くの家財道具を携えていたため、その歩みは遅々たるものであった。韋生自身、豪胆な気性で知…

疑惑

[菫邑](ぎん)県(浙江省)大松場の海辺に住む甲はちびで醜男(ぶおとこ)で、その上、頭も弱かった。まったくさえない男であるにもかかわらず、妻はたいそうな美人であった。妻は醜い夫を嫌い、乙と関係を持った。しかし、妻はすぐに乙に飽き、今度は丙…

飛ぶ首

南方に「落頭民」というのがいる。その頭が胴から離れて飛ぶことからそう呼ばれている。 三国呉の時代のことである。南征中の将軍朱桓(しゅかん)が一人の婢女(はしため)を得た。すこぶる愛敬があり、朱将軍も憎からず思っていた。ある夜、朱将軍は遂にそ…

亡き妻の怨み

華亭(かてい、江蘇省)の衛寛夫(えいかんふ)は妻を亡くし、一年足らずで劉氏を後妻に迎えた。 すると、しばしば先妻の霊が下女について怨み言を述べ、家の中でも怪異が起こるようになった。ある者は悲しそうなため息を聞いたと言い、先妻の姿を見かけたと…

麗娟

漢の武帝の後宮に麗娟という宮女がいた。年は十四歳、玉の肌膚(はだえ)に吐く息は蘭よりも芳しく、帝の深い寵愛を受けていた。帝は麗娟に紐や帯を身に着けることを禁じた。紐や帯がその肌膚に痕をつけることを恐れたのである。 麗娟は歌舞に秀で、その歌う…

雷州の太守

広東(カントン)の雷州は最果ての地である。明の崇禎(すうてい)年間(1628〜1644)はじめに、金陵(南京)の高官が郡の太守として雷州へ赴任することとなった。息子を金陵に残し、妻と娘を連れて水路、雷州へ向かった。その途中、盗賊の一団に襲われ、妻…