金元

頭の交換

蜀(四川省)の遂寧(すいねい)府に岳という士人がいた。七曲山の梓潼君(しとうくん)の社(やしろ)にこもって出世を祈願した。[門+良](ろう)州の李という士人もこの社に来ていたのだが、離れた部屋にこもっていたので顔を合わすことはなかった。 社…

飛雲渡

温州(浙江省)の瑞安(ずいあん)に飛雲渡(ひうんと)という渡し場がある。激しい風浪がしばしば船を覆し、多くの人命が失われた。 ここ瑞安に一人の少年がいた。その行ないは奔放不羈(ほんぽうふき)で何物にもとらわれなかった。 かつて少年は占い師に…

石氏の娘が尤郎(ゆうろう)に嫁いだ。夫婦の情愛はいたって睦まじかった。 尤郎が遠方へ行商に出ることになった。石氏は懸命に行かせまいとしたのだが、尤郎は聞き入れなかった。いつまで経っても尤郎は戻ってこず、夫への思いを募らせた石氏は病に臥す身と…

紅蜘蛛

建寧(けんねい)府(福建省)に娘を二人持つ人がいた。その家の向かいには大きな山があった。 娘達はそれぞれ嫁いでいたが、正月なので里帰りしてきた。久しぶりに会った姉妹二人は実家の花園で積もる話でもしようということになった。 「キャッ!」 花園に…

禽戯

元代の杭州(浙江省)で動物の曲芸を見せる者があった。それは亀を使うものであった。 まず、大小七匹の亀を机の端に並べる。そして太鼓を打ち鳴らすと、一番大きな亀がノッソリと動き出して机の中央に進み出てうずくまる。次に二番目に大きな亀がノソノソと…

幽鬼の腰痛

徐熙(じょき)は後に射陽県(江蘇省)の知事になった人であるが、若い頃は鍼灸(しんきゅう)を修め、そちらの方でかなり名が通っていた。 ある真夜中のこと、眠っていると暗闇ですすり泣く声がした。いつもきちんと戸締まりをしているので、外から何者かが…

戴十の妻

戴十(たいじゅう)はどこの人かはわからない。乱の後、洛陽(らくよう、河南省)の東南にある左家荘(さかそう)に移り住み、雇い仕事をして暮らしていた。 癸卯の年(1243)の八月、一人の通事が戴十の管理する豆畑に馬を入れた。戴十がそれを追い払うと、…

天の賜物

医巫閭(いふりょ)山は広寧(こうねい、遼寧省西部)の名山である。また、そこに祭られている閭山公廟が霊験あらたかなことでも有名であった。 実際、どのような霊験があったのか、具体的に語ることのできる者はいないのであるが、廟内の神像は恐ろしげでう…

疑惑

[菫邑](ぎん)県(浙江省)大松場の海辺に住む甲はちびで醜男(ぶおとこ)で、その上、頭も弱かった。まったくさえない男であるにもかかわらず、妻はたいそうな美人であった。妻は醜い夫を嫌い、乙と関係を持った。しかし、妻はすぐに乙に飽き、今度は丙…

灯下の鬼

金の大定年間(1161〜1189)のことである。忻州(きんしゅう、山西省)の賀端中(がたんちゅう)が宣聖廟(せんせいびょう、孔子廟のこと)に物忌みのために泊まった。 その夜、灯火の下に大きな青い鬼が現われた。髪は逆立ち、目はかがり火のように爛々と光…

疑心暗鬼

建寧府(けんねいふ、福建省)城外に林二四(りんじし)という漬物売りが住んでいた。 毎日、天秤棒を担いで城内まで漬物を売りに行っていた。商売はそこそこに順調だったが、一つだけ問題があった。行き帰りに必ず刑場を通らなければならなかったのである。…

厨娘

南宋の寶慶(ほうけい)年間(1225〜1227)のことである。 趙制幹(ちょうせいかん)が一人の厨娘(ちゅうじょう、女の料理人)を雇い入れた。非常に美貌だったため、主人の趙制幹はすきを見ては手を出そうとするのだが、何かと理由をつけて逃げられていた。…

髑髏神

南宋の嘉煕(かき)年間(1237〜1240)のことである。 農村で十歳になる子供が突然、姿を消した。家族は祈祷師を呼んだり、近隣の村に立て札を立ててその行方を探し求めたのだが、杳として手がかりがつかめなかった。 子供が姿を消してしばらく経ったある日…

元の至元(しげん)二十年(1283)に姚忠粛公(ようちゅうしゅくこう)が遼東の按察使(あんさつし)となった時のことである。 武平県の劉義という者が、兄嫁が情夫と共謀して兄の劉成を殺した、と訴え出た。県令の丁欽(ていきん)が調べにあたったのだが、…

京師(首都のこと。北宋の首都は開封)に一軒の酒屋があった。 いつも蝿が酒の匂いにつられて飛んで来ては樽に落ちて溺れた。この酒屋の杜氏(とうじ、酒造りの職人)はもともと信心深かったので、蝿を見つけた時は必ず救い上げ、灰で体を乾かしてから逃がし…