2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

赤い縄(二)

老人は本を閉じて立ち上がると、袋を担いで歩き出した。韋固もその後について行った。市場に着くと、一人の老婆が市場へやって来るところであった。老婆は片目がつぶれており、身なりもたいそうみすぼらしい。その懐には三歳ばかりの幼女がぼろにくるまれて…

赤い縄(一)

杜陵(とりょう、陝西省)に韋固(いこ)という人がいた。幼い頃に両親を亡くしていたので、早く妻を迎えて家庭を持ちたいと思っていた。心当たりに縁談を頼んでいたのだが、決まってあと少しというところで破談になるのであった。 貞観(じょうがん)二年(…

倩霞(三)

中にひときわ白く、なめらかな足があった。足の裏には、川の字のような紋理がうっすらと浮かんで見えた。林青は昨夜見た不思議な夢を思い出した。 「倩霞の足だ」 林青はその足の裏に筆で倩霞の名前を記した。 耿精忠が確かめると、今度も倩霞であった。これ…

倩霞(二)

林青は手の一つ一つをじっくり見たのだが、どれもほっそりとして、玉を刻んだよう。倩霞の手を見分けるのは、至難の業であった。 その時、倩霞が左手の薬指の爪を二寸あまり伸ばしていたことを思い出した。そこで、もう一度、手を見て回ると、十六番目の手の…

倩霞(一)

靖南(せいなん)王の耿精忠(こうせいちゅう)は封土の福建で豪奢をほこり、その贅沢はとどまることを知らなかった。王府の護衛に林青という者がいた。年は二十歳で、耿精忠から実の甥のようにかわいがられていた。そのため、藩邸へ自由に出入りすることを…