2013-01-01から1年間の記事一覧

頭の交換

蜀(四川省)の遂寧(すいねい)府に岳という士人がいた。七曲山の梓潼君(しとうくん)の社(やしろ)にこもって出世を祈願した。[門+良](ろう)州の李という士人もこの社に来ていたのだが、離れた部屋にこもっていたので顔を合わすことはなかった。 社…

樹下の美女

太原(山西省)の王垂(おうすい)と范陽(はんよう、河北省)の廬収(ろしゅう)は親友同士であった。唐の大暦(たいれき)年間(766〜779)初めに、二人は舟で淮南(わいなん)と浙江(せっこう)の間を旅した。 石門駅の近くの樹下に一人の女が立っていた…

赤い縄(二)

老人は本を閉じて立ち上がると、袋を担いで歩き出した。韋固もその後について行った。市場に着くと、一人の老婆が市場へやって来るところであった。老婆は片目がつぶれており、身なりもたいそうみすぼらしい。その懐には三歳ばかりの幼女がぼろにくるまれて…

赤い縄(一)

杜陵(とりょう、陝西省)に韋固(いこ)という人がいた。幼い頃に両親を亡くしていたので、早く妻を迎えて家庭を持ちたいと思っていた。心当たりに縁談を頼んでいたのだが、決まってあと少しというところで破談になるのであった。 貞観(じょうがん)二年(…

倩霞(三)

中にひときわ白く、なめらかな足があった。足の裏には、川の字のような紋理がうっすらと浮かんで見えた。林青は昨夜見た不思議な夢を思い出した。 「倩霞の足だ」 林青はその足の裏に筆で倩霞の名前を記した。 耿精忠が確かめると、今度も倩霞であった。これ…

倩霞(二)

林青は手の一つ一つをじっくり見たのだが、どれもほっそりとして、玉を刻んだよう。倩霞の手を見分けるのは、至難の業であった。 その時、倩霞が左手の薬指の爪を二寸あまり伸ばしていたことを思い出した。そこで、もう一度、手を見て回ると、十六番目の手の…

倩霞(一)

靖南(せいなん)王の耿精忠(こうせいちゅう)は封土の福建で豪奢をほこり、その贅沢はとどまることを知らなかった。王府の護衛に林青という者がいた。年は二十歳で、耿精忠から実の甥のようにかわいがられていた。そのため、藩邸へ自由に出入りすることを…

公孫聖

呉王夫差(ふさ)が大臣の公孫聖(こうそんせい)を理由もなく殺した。 後に呉は越に攻められ、夫差は敗走した。彼は側近の太宰[喜否](たいさいひ)に言った。 「昔、公孫聖を殺して死体を余杭山(よこうさん)の麓に捨てた。このまま行けば、そこを通ら…

壁龍

唐の柴紹(さいしょう)の弟の某は武勇に優れていた。非常に身のこなしが敏捷で、十数歩(一歩は約1.5メートル)もの高さまで飛び上がることができた。 これに興味を覚えた太宗は、皇后の兄、長孫無忌(ちょうそんむき)の鞍一揃いを盗み出すよう命じた。無…

銅人の怪

処士の張[糸眞](ちょうしん)は早くに妻を江陵(こうりょう、湖北省)で亡くした。その後、すぐに妾を入れたのだが、これがたいそう艶麗(えんれい)であった。 妾を迎えて十日足らずのある日、料理番の下女が竃(かまど)の下で小さな銅人を見つけた。大…

逢瀬

壮士の某(なにがし)が湖広(ここう、湖北湖南一帯のこと)の古寺に泊まっていた。 ある夜、明月があまりに美しかったので、某は寺を出て辺りを散策した。ふと見ると、林の木々の間を何やらふわふわ飛んでいる。目を凝らしてみたところ、唐巾(とうきん、頭…

夜来香の女

定陶(ていとう、山東省)の徐生(じょせい)は雅やかな美少年であった。物腰は柔らかで、いつもしゃれた身なりをしていた。 隣家の晁(ちょう)氏の庭に一株の夜来香があった。高さは庇(ひさし)まであり、数千もの花を咲かせていた。花は盃ほどの大きさが…