2009-01-01から1年間の記事一覧

白気

河南の龍門の僧侶、法長(ほうちょう)は鄭州(河南省)原武(げんぶ)の人であった。 宝暦年間(825〜827)に、法長は故郷の原武に戻った。家には数頃(当時の一頃は約 580アール)の田畑があり、まだ刈り取りをすませていなかった。 ある夜、法長が馬で田…

厨娘

南宋の寶慶(ほうけい)年間(1225〜1227)のことである。 趙制幹(ちょうせいかん)が一人の厨娘(ちゅうじょう、女の料理人)を雇い入れた。非常に美貌だったため、主人の趙制幹はすきを見ては手を出そうとするのだが、何かと理由をつけて逃げられていた。…

儀光襌師(後編)

唐の中興とともに則天武后時代に誅滅(ちゅうめつ)された人々の名誉回復が行われた。瑯邪王(ろうやおう)の血族に関しても例外ではなかった。このことを知った襌師は寺主に己の出自を告白した。 寺主は襌師がやんごとない生まれであることに大いに驚き、岐…

儀光襌師(前編)

長安青龍寺の儀光襌師(ぎこうぜんし)が入滅した。唐の開元二十三年(735)六月二十三日のことであった。襌師は皇族の一員に生まれついた。父は瑯邪(ろうや)王李冲(りちゅう)である。李冲は父の越王貞とともに嗣聖五年(688)に則天武后に対して挙兵し…

朱七娘

唐の洛陽(河南省)の思恭坊(しきょうぼう)に朱七娘(しゅしちじょう)という妓女がいた。朱七娘はとうに盛りを過ぎていたが、若い頃、王将軍の 寵愛を受けていた。開元年間(713〜741)に王将軍は病死したのだが、朱七娘はそのことを知らないままに半年が…

不死の酒

洞庭湖(湖南省)に君山という島がある。その最も高いところには数斗の美酒が秘められており、これを飲んだ者は死を免れるという。 漢の武帝はかつてこの不死の酒を入手したことがある。七日間の精進潔斎(しょうじんけっさい)の後、童男童女数十人を君山に…

木霊

陝州(せんしゅう、陝西省)西北の白経嶺(はくけいれい)付近に上邏(じょうら)村という農村がある。その村に田氏という農民がいた。この田氏が井戸を掘っていた時のことである。 掘り進む内に人の腕位もある太さの木の根に突き当たった。根の表皮は茯苓(…

李光遠

開元年間(713〜741)のことである。李光遠(りこうえん)が館陶(かんとう、山東省)県の知事となった。当時、館陶一帯は旱魃(かんばつ)に見舞われた。光遠は文書で旱魃の状況を中央に訴えようとした。ところが、光遠は文書を書き上げた途端、急死してし…

幽霊船

宋の大観年間(1107〜1110)のことである。広東の南洋を一隻の商船が航行していた。 順風に乗って航行していたある日、突然風向きが変わった。逆風に吹き流されて航路を大いに外れ、外海にまで流されてしまった。 たまたま一人の商人が乗り合わせていたが、…

白髪

髭に白いものがめっきり増えたのを気にした老人、妾に白髪を抜かせようとする。妾、白髪があまりにも多くて全部抜くことは無理と見て、黒い方をすっかり抜いてしまった。抜き終わって鏡を見た老人、髭が真っ白になっているので、妾を叱り飛ばした。妾は怨め…

非情

貞元年間(785〜805)に、崔慎思という男が進士試験を受けるため、博陵(河北省)から上京してきた。長安には頼るべき親戚も知人もないので、空き家を探して借りることにした。しかし、進士試験の時期には慎思のような受験生が多く、空き家はなかなか見つか…

長垣の女

宣和年間(1119〜1125)のことである。開封(かいほう、河南省)の長垣(ちょうえん)県の二人の弓手(きゅうしゅ、地方の下級警察官)が郊外を巡邏(じゅんら)していて、籠を提げた女が走ってくるのと行き会った。 「誰か、助けてーっ!」 女は三頭の狼に…

山東の長白山の西に墓が一つある。地元の人間は『夫人の墓』と呼んでいたが、誰の墓であるかわからなかった。 北斉の孝昭帝の御世(560〜561)に、広く天下の俊才を求めたことがあった。清河(河北省)の崔羅什(さいらじゅう)は若輩にもかかわらず令名が高…

あいさつ

親戚同士が道で出会った。一人は人並みはずれたせっかちで、一人は人並みはずれてのんびりした性格であった。 まず、のんびりした方がおもむろに深々と頭を下げながら口上を述べた。 「正月にごあいさつにまかりこしました時分にはお邪魔をいたしました。元…

螺亭

南康(なんこう、江西省)に、田螺(たにし)を採って暮らす女がいた。ある時、女は出かけて帰りが遅くなり、亭(あずまや)に泊まった。 その夜中、風が起こり、雷鳴がとどろいた。その音で目を覚ますと、近くで何かうごめく気配がする。その時、稲光が走り…

心鉄

昔、一人の商人がいた。年若く、容姿すぐれた男で、いつも舟で河を往来していた。 ある時、西河の下流に停泊した。桟橋のそばに高楼があり、その窓辺には年若い美女の姿があった。四つの目が互いの存在を認めるのにそう長い時間はかからなかった。思いのたけ…

耳掩いの道士

利州(四川省)南門外の市場には、市の立つ日には近隣から客が集まり、なかなかの盛況ぶりであった。 ある日、人込みでにぎわう市場にどこからか一人の道士がふらりと現われた。破れ頭巾を被り、いかにも見すぼらしい身なりであった。 道士は何やら袋を開く…

茉莉花の根

福建で娘が頓死した。嫁入りを目前に控えたある朝、寝床で冷たくなっていたのである。前夜まで元気に笑っていたので、その突然の死は誰にとっても意外なものであった。 それから一年余り経って、娘の親戚が所用で他県に出かけた。そこで亡くなった娘の姿を見…

狐の名簿

呉郡に顧旃(こせん)という人がいた。狩りに出た時、ある丘を通りかかったところ、突然、人のぼやく声が聞こえてきた。 「やれやれ、今年はだめだなあ」 顧旃が仲間とともに辺りを探してみると、丘の頂上にたて穴を見つけた。古い塚のあとで、奥には一匹の…

返生香

中国の遥か西方の聚窟州に神鳥山がある。神鳥山には楓とよく似た樹木が生い茂り、その花や葉の放つ芳香は数百里の先まで香った。返魂樹という。この樹はまた犀のような声を発する。これを聞いた人は皆、魂消てしまう。その根を切って玉の釜でとろ火で煮詰め…

冥府の鏡

青城(四川省)の室園山の僧侶、彦先(げんせん)は有徳の僧侶として人々の尊崇を集めていた。しかし、彦先には秘密があった。彼はかつて戒律を破ったことがあった。 ある時、彦先は室園山を離れて蜀州へ向かった。その途中、天王院に泊まった夜、病でもない…

壁画の美少女

江西(こうせい)の朱が北京に滞在していた時のことである。同郷の孟とともにに郊外のある寺を訪れた。老僧が一人住んでいて、二人が入ってくるのを見ると、出迎えて先に立って寺内を案内してくれた。 寺は小さかったが、本堂の壁画は実に見事で、人物など生…

取り替え子

陳素(ちんそ)という人は裕福であったが、妻を娶って十年になるというのに、いまだに子供に恵まれなかった。 人の勧めもあって後継ぎを儲けるために妾を入れることにした。それを知った妻が何とか子宝を授けてくれるよう先祖の霊廟に祈願したところ、めでた…

金の蝋燭

秦檜(しんかい)が権勢をふるっていた時のことである。雅州(四川省)の太守が秦檜の誕生日に山のような贈り物を整えたのだが、その中に百本の太い蝋燭(ろうそく)が百本あった。もちろん権勢家への贈り物なのだから、普通の蝋燭であろうはずがない。それ…

月から来た男

唐の太和年間(827〜835)のことである。二人の男が嵩山(すうざん、河南省)に登った。蘿(かずら)をよじ登り、渓流を踏み越えしているうちに奥深く入り込んでしまった。今まで誰も足を踏み入れていないような場所で、気がつくと道に迷っていた。そろそろ…

陳道人

建康(南京)の陳道人は検死役と親しくつき合い、いつも酒をおごっていた。 ある時、検死役が、 「あんたにはいつもよくしてもらってるから、何かお返しがしたい。望みを言ってくれ」 とたずねると、 「十七、八歳の健康な男の死体がほしいのですよ」 とのこ…

約束

長沙(ちょうさ、湖南省)の人、尤深は気韻(きいん)に富んだ美少年であった。彼は一人で湘渓(しょうけい)を散策した時、古い廟を見つけた。 垣根は崩れ、草はぼうぼうと生い茂り、どこにも人の気配がなく、さびれ果てていた。詣でる者のない祭壇には一体…

朱進馬の還魂

明の正徳二年(1507)に、陝西(せんせい)靖寧(せいねい)州の朱進馬(しゅしんば)の父が四川成都の属邑に教官として赴任することになった。進馬も父の赴任に随行した。父の任期が満ちて故郷に戻る途中、進馬は病気で死んだ。父は進馬の遺体を靖寧州に連…

妖猫

筆帖式(ビトヘシ、書記)の某公子の家は富裕であった。両親、兄弟共に存命で、家庭は円満、何一つ不足のない生活を享受していた。某公子の家は大所帯で、皆好んで猫を飼っていた。白いのや黒いの、斑(まだら)や縞など数え切れないほどであった。餌の時刻…

僧侶自焚

金の法では、女真人が漢地を治める時には必ず通事(通訳のこと)を置くことになっている。もちろん言葉が通じないからであるが、一切の意思疎通が通事を通して行なわれるため、賂(まいない)を受けて事実をゆがめることも多々あった。そういうわけで、ひと…