不死の酒
洞庭湖(湖南省)に君山という島がある。その最も高いところには数斗の美酒が秘められており、これを飲んだ者は死を免れるという。
漢の武帝はかつてこの不死の酒を入手したことがある。七日間の精進潔斎(しょうじんけっさい)の後、童男童女数十人を君山に派遣してようやく手に入れることができた。
帝が不死の酒を満たした盃を手にしようとしたその時、東方朔(とうぼうさく)が御前に進み出てこう申し上げた。
「やつがれはかねてより君山の不死の酒を存じておりまする。これがまことに君山よりもたらされたものかどうか、一口、利き酒を仰せつけ下さいませ」
そして盃を受け取るなり、盃をぐっとあおって、一口どころかく全部飲み干してしまった。怒った帝は刀を握ると、朔を成敗しようとした。すると、朔は動じる気配もなく、ぬけぬけとこう言い放った。
「お斬りになりたければどうぞ。お斬り遊ばしてもしも私が命を落としましたならば、この酒には効き目がないというわけでございます。また、効き目があれば、私を斬ったとて無駄でござりまする」
これには帝も一本取られてしまい、朔を許したのであった。
(六朝『博物志』)
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