朱七娘
唐の洛陽(河南省)の思恭坊(しきょうぼう)に朱七娘(しゅしちじょう)という妓女がいた。朱七娘はとうに盛りを過ぎていたが、若い頃、王将軍の
寵愛を受けていた。開元年間(713〜741)に王将軍は病死したのだが、朱七娘はそのことを知らないままに半年が過ぎた。
その年の七月のことである。突然、朱七娘のもとを王将軍が訪れ、長い時間をともに過ごした。
日が暮れかかる頃、王将軍が言った。
「これから温柔坊の私の邸に一緒に来ないか?」
朱七娘には技芸に優れた娘があり、これが口をはさんだ。
「将軍様がこちらにお泊まりになればよろしいではありませんか。何か差し障りでもあるのでしょうか」
しかし、朱七娘は娘の止めるのもきかず、王将軍に同行した。
王将軍は朱七娘を馬に乗せて、邸に連れ帰った。奥へ連れていくと、昔のように情を交わした。
翌朝、王将軍の妻が下女に祭壇にかけた衾(ふすま)をたたむよう言いつけた。下女が衾をめくると、中で朱七娘が眠っていた。下女は驚いて、妻に知らせ
た。
王将軍には数人の息子があった。彼らはこの怪異を知ると、祭壇の前に集まってきた。目覚めた朱七娘にわけをたずねて、亡き父親が連れてきたこと
を知ったのであった。息子達は王将軍が死後も朱七娘との過去の交情を忘れていなかったことに感動して泣いた。そして、朱七娘を自宅へ送っていった。
(唐『広異記』)
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