2010-06-01から1ヶ月間の記事一覧

おしろい

あるところに金持ちの御曹司がいた。一人息子ということで両親は非常に可愛がっていた。この若者がある日、市場を通りかかった。市場は野菜を売る人、肉を売る人、着物を売る人、道具類を売る人、そして買物に来た人でごった返していた。若者はめったに市場…

柔福帝姫

靖康(せいこう)二年(1127)、宋の都開封(かいほう、河南省)は金軍の猛攻の前に陥落した。そして、徽宗、欽宗二帝以下、后妃、皇族、官吏、技術者などが捕虜として北方の極寒の地へ連行されることとなった。皇族でこの危難をまぬがれたのは康王(こうお…

見えない子供

呉(ご)の左中郎、広陵の相である胡煕(こき)には胡中(こちゅう)という娘がいた。婚約が決まり、嫁入りを待っている間に、胡中が突然身ごもった。相手は誰かと問いつめても、胡中自身にも心当たりのないことであった。 胡煕の父親の胡信(こしん)はたい…

罰を受けた美男子(後編)

叔文(しゅくぶん)は開封に着くまでの間、愛妻を事故で失った哀れな夫として見事に振る舞った。船客の中にはその姿に同情して見舞金をくれる者もあった。そして、船は開封に到着した。 叔文は蘭英(らんえい)のへそくりと装身具、船客からの見舞金をまとめ…

罰を受けた美男子(前編)

宋の時代、都の開封(かいほう、河南省)に陳叔文(ちんしゅくぶん)という男がいた。刻苦勉励して科挙に及第し、常州(江蘇省)宜興(ぎこう)県の主簿(書記官)に任命された。しかし、家は貧しく日々の生活費にも事欠くありさまで、任地に赴任する路銀す…

ドンッ!

王京(おうけい)は宜君(ぎくん、陜西省)の砲手であった。その日は参将(上級武官)が役所を出る時に号令の大砲を放つことになっていた。王京は準備を整え、手馴れた様子で役所の外門に並んだ三門の大砲に次々に点火していった。天地を震わせるような砲声…

泣く女

陸容(りくよう)が桐廬(とうろ、浙江省)を通りかかった時のことである。ふと見れば、河の向こう岸で一人の女が泣きながら訴えていた。 「夫が殺された、夫が殺された」 河は深くて広く、そう簡単には渡れそうにない。陸容が何とかして女から仔細を聞こう…

乞食の恩返し

富豪のなにがしの夫人は慈悲深いことで知られていた。 一人の乞食が村はずれの大樹の下に住み着いたのだが、病がちで、物乞いに行くこともままならなかった。夫人は乞食を憐れみ、毎日、三度の食事を出して養ってやった。乞食もよそへは行かなかった。 数年…

遺言

隗昭(かいしょう)という人は易(えき)に長けていた。 ふとしたことで病みつき、あらゆる手を尽くしたが回復の見込みがなかった。臨終に際して隗昭は妻に何やら書きつけた札を渡して言った。 「私が死んだら生活は大変になるだろう。しかし、どんなに困っ…

昔々のことである。船で東海に乗り出した人がいた。 運悪く時化(しけ)に遭って難破した。船は大破し、舵(かじ)もきかず、ただ風に任せて漂うだけであった。夜空の星を見ても、一体どこを航行しているのかさえわからなかった。 そのように漂流すること一…

妻の貞操

遠方へ商売に出ていた男が数十年ぶりに帰郷した。男は妻が自分のいない間に不貞を働いたのではないかと疑った。そこで、村の外に身を隠して、夜になったらこっそり帰宅して、妻の貞操がどれほど堅いか確かめてみようとした。 夜更けに男は顔に泥を塗って、窓…

うっかり

臨済(りんせい、山東省)の県知事李回(りかい)の妻の張氏は盧州(ろしゅう、安徽省)長史(州の属官)の娘であった。父親は長年、長史を務めたが、高齢を理由に辞職して故郷で隠居生活を送っていた。 この張老人、隠居の身となった途端、暇を持て余してし…

劉玄

南朝の宋のことである。中山(河北省)の劉玄(りゅうげん)という人が越城(えつじょう)に住んでいた。 ある夜、黒い袴子(ズボン)をはいた人が火を取りに来た。その顔には目も鼻もなく、ただ草がぼうぼうに生えているだけであった。 不思議に思って、占…

臨城県(安徽省)の南四十里に蓋山(がいさん)がある。その百歩あまりの所にが舒姑泉(じょこせん)がある。泉は清冽(せいれつ)な水を満々と湛えている。 昔、舒家に美しい娘がいた。ある日、父親とともにこの泉の周りに薪を拾いに来た。父娘は薪を拾い終…

豆腐

ある男、客をまねいて馳走したのだが、豆腐料理しか出さぬ。曰く、 「豆腐は私の命です。こんなに美味しいものはこの世にありませんわい」 しばらくして、その男が客の家に行くと、非常に歓待してくれた。客はちゃんと男の好みを覚えていて、魚肉を豆腐に混…

夫婦成仙

樊(はん)夫人は上虞(じょうぐ、浙江省)の県令劉綱(りゅうこう)の妻であった。綱は道術の心得があり、鬼神を召喚することや、変化(へんげ)の術に通じていた。また、秘密の法術も修得していたが、それを知る人はいなかった。 綱はこの地を治めるに当た…

奇妙な訴え

呉冠賢(ごかんけん)が安定(陝西省)の県知事となった時のことである。ある日、十六、七歳の少年と少女が役所にやって来て、奇妙な訴えを起こした。少年の言い分はこうであった。 「この娘は私の許嫁(いいなずけ)です。両親が私の妻にするために養ってお…