遺言

隗昭(かいしょう)という人は易(えき)に長けていた。


ふとしたことで病みつき、あらゆる手を尽くしたが回復の見込みがなかった。臨終に際して隗昭は妻に何やら書きつけた札を渡して言った。


「私が死んだら生活は大変になるだろう。しかし、どんなに困っても、絶対にこの家を売ってはならない。五年待つんだ。五年経って春になったら、この地を勅使(ちょくし)が通りかかる。共(きょう)という人だ。私はその人に金を貸しているのだ。お前はこの札を持って取り立てに行け。絶対に忘れるでないぞ」


そう言い残して死んだ。


果たして主を失った隗の家は大層困窮した。家族は皆、


「あんなに易を得意としていたのだから、残された者達が楽に生活できるような方法でも占っておいてくれたらよかったのに」


と亡くなった隗昭のことを怨んだ。中には家を売ってしのごうと言う者もいたが、未亡人は亡き夫の遺言を守って頑として拒んだ。


五年後の春のことである。この地を勅使が通りかかった。隗昭の言う通り共という人であった。未亡人は札を携えて共の宿舎を訪ねた。共はびっくりして言った。


私はこの地に来たのは初めてなのに、どうして私のことをご存知で?」


未亡人が答えた。


「亡くなった主人がいまわの際にこの札を残してあなたを訪ねるよう言い残したのです。私はただ主人の遺言に従ったまでです」


共はしばらく考え込んでいたが、何か思い当たる所があったらしい。


「ご主人は何をなさっておられましたか?」


「易を得意としておりました。しかし、生業にしていたわけではございません」


「ああ、それでわかった」


共は手を打って言うと、従者に筮竹(ぜいちく)を持って来させた。器用に筮竹を分けたりまとめたりして卦(け)を立てた。


「ふむッ! 隗殿は生前、秘密がおありで誰にも打ち明けておられませぬな。何々……ふむ、貧窮栄達に照らして禍福を掘り出せ……か」


としばらくぶつぶつ言っていたが、やがて、にっこり笑って未亡人に言った。


「私は隗殿に金を借りてなどおりませぬ。ご主人には自分の金がおありなのです。ご自分が亡くなられた後、ご家族が路頭に迷うのがわかっておられたので、金を隠しておかれたのですよ。何分、こんなご時世ですから世の中が落ち着くのを待って掘り出させようと思って、そうご遺言なされたのでしょう。元も子もなくされるのを恐れられたのです。私が少しばかり易をたしなむのをどこかで耳にされたのですね、きっと。で、このような遺言を残されたわけです。金は全部で五百斤、全て素焼きの酒瓶に入れて銅で蓋がしてあります。母屋の東側の壁から一丈行った所を九尺ほど掘ってごらんなさい」


言われた通りに掘ってみると、全て卦の結果の通りであった。



六朝『録異傳』)