乞食の恩返し

富豪のなにがしの夫人は慈悲深いことで知られていた。


一人の乞食が村はずれの大樹の下に住み着いたのだが、病がちで、物乞いに行くこともままならなかった。夫人は乞食を憐れみ、毎日、三度の食事を出して養ってやった。乞食もよそへは行かなかった。


数年後、乞食は重い病にかかり、危篤に陥った。夫人が見舞いに行くと、乞食は苦しい息の下で言った。



「私は長い間、奥様のお世話を受けながら、まだ、ご恩に報いておりません。ただ、この数年の間、一度もお宅に泥棒が入らなかったのは、私が夜な夜な見回りをしていたからです。私はもう、死にます。奥様にお残しできるものといえば、このつぎはぎだらけの襤褸(ぼろ)だけです。裂いて、履(くつ)の芯にでもして下さい。どうか、汚いからとお捨てにならないように。埋葬の費用は奥様のお宅で出していただければ、幸いです」


夫人は襤褸を受け取ってみると、それはずっしりと重かった。不審に思って、帰宅してから灯りの下で調べてみると、中には黄金が包まれていた。


乞食は死に、夫人は約束通り、丁重に埋葬してやった。


詳しい事情を知る者によれば、法の手を逃れた大盗賊が乞食に身をやつして逃げる途中、病で動けなくなって夫人の世話を受け、その恩に報いたのだという。



(清『志異続編』)