2010-04-01から1ヶ月間の記事一覧

山中の蜃気楼

山東省に煥山(かんざん)という山がある。しばしば蜃気楼が目撃されることで有名であった。 明の嘉靖二十三年(1544)、県知事の張其輝(ちょうきき)が公務で煥山を通りかかった。公務のため夜を徹して山道を急いでいた。東の空が明るんできた時、ふと山頂…

長安(陝西省)の青龍寺(せいりゅうじ)の儀光禅師(ぎこうぜんし)は、徳の高いことで知られていた。 開元十五年(727)にある役人の妻が死に、祈祷のために儀光禅師が招かれた。儀光禅師は数日間、母屋の脇部屋に滞在し、死者を供養することになった。 世…

夫婦

ある男が夜道を歩いていた。ちょうど墓場へ通じる道にさしかかった時、月明かりの下で木々の間に坐る二つの人影が目に入った。 一人は十六、七歳の瑞々しい美少年。もう一人は白髪頭の老婆で、背はすっかり曲がって杖にすがっていた。どう見ても七、八十は越…

落雷

清の雍正十年(1732)六月のことである。真夜中に献県(河北省)をひどい雷雨が見舞い、県城の西に住む村人が、自宅に落ちた雷に撃たれて死んだ。県令の明晟(めいせい)が自ら赴いて検死をした後、遺体を納棺した。誰もがその死が落雷によるものと疑わなか…

蛇退治

東越(福建省)に庸嶺(ようれい)という山がある。高さ数十里(当時の一里は約430メートル)、その西北に位置する沢の洞窟には一匹の大蛇が棲みつき、土地の人々は日夜恐れおののいて暮していた。長さ七、八丈(当時の一丈は約2.4メートル)、太さは十抱え…

犬姦

青州(せいしゅう、山東省)に一人の商人がいた。他郷へ商売に出かけることが多く、ひとたび家を出れば一年は戻らなかったため、妻はいつも一人寝の寂しさを耐え忍ばなければならなかった。外聞をはばかって情人を持つこともできず、鬱々(うつうつ)と楽し…

古寺の怪

唐の貞元年間(785〜805)初めのことである。木師古(もくしこ)という旅人がいた。ある日、金陵(南京)の近くの村まで来たところで、日が暮れた。古寺に一夜の宿を求めると、住職は木師古を狭く、みすぼらしい部屋に案内した。 寺にはほかに客間があったの…

銀の耳飾り

明の崇禎(すうてい)十三年(1640)のことである。 山東諸州ではここ数年来の旱魃(かんばつ)で凶作が続いていた。この年、ついに大量の流民が故郷を捨て、食べ物を求めて南京へ流れ込んだ。そのため南京ではあちこちの軒下で雨露をしのぐ乞食の姿が見られ…

死後の逢い引き

揚州(江蘇省)の某生は、名門の生まれで、父親は都で官職に就いていた。幼い頃から聡明で、目を見張るばかりの美少年であった。十四歳の時、府学の秀才となり、幾度か受けた試験にはすべて合格した。その前途は開け、人々は某生を大空に羽ばたく鷲のようだ…

古傷

サルト氏のチュク・バトゥルは若い頃、烈親王麾下(きか)の武将として勇名をはせていた。 明の宣化府城(河北省)を攻めた時、真っ先に城壁をよじ登ったチュク・バトゥルは待ち構えていた明兵に首を斬られ、深手を受けた。しかし、チュク・バトゥルは深手を…

髪切り

孫巌(そんがん)という挽歌(ばんか)の歌い手がいた。三年前に妻を娶ったのだが、どうしたわけか妻は寝る時に着物を脱がなかった。孫巌は怪しく思い、妻が眠り込むのをうかがって、ひそかに着物を脱がせると、長さ三尺(当時の一尺は約30センチ)ばかり…

大蛇の葉

ある役人が南方へ出張した時のことである。山中で一匹の大蛇に出会った。長さ数丈(一丈は約3.1メートル)、太さは一尺五寸(約46センチ)はあろうかという巨大な蛇であった。幸い満腹のようで役人には見向きもせず、はち切れんばかりに膨れ上がった腹を抱え…