髪切り
孫巌(そんがん)という挽歌(ばんか)の歌い手がいた。三年前に妻を娶ったのだが、どうしたわけか妻は寝る時に着物を脱がなかった。孫巌は怪しく思い、妻が眠り込むのをうかがって、ひそかに着物を脱がせると、長さ三尺(当時の一尺は約30センチ)ばかりの尻尾が生えていた。それは狐の尾によく似ていた。
驚いた孫巌は妻を離縁した。妻は出ていく時に、突然、刀で孫巌に襲いかかると、その髪を切り取って逃げた。孫巌の悲鳴を聞いた隣人が追いかけたが、妻は狐に変じ、ついに行方を見失った。
その後、都のあちこちで狐に髪を切られる者が続出し、その数は百三十人あまりにも上った。髪を切られたのはすべて男であった。
狐はまず女に化け、めかし込んでしゃなりしゃなりと歩く。男が鼻の下を伸ばしてふらふら近づくと、必ず髪を切られてしまうのである。そういうわけで、当時、派手な格好で出歩く女を「狐のお化け」と呼んだ。
これは熙平(きへい)二年(517)四月に起こり、秋には鎮まった。
(六朝『洛陽伽藍記』)
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