落雷

清の雍正十年(1732)六月のことである。真夜中に献県(河北省)をひどい雷雨が見舞い、県城の西に住む村人が、自宅に落ちた雷に撃たれて死んだ。県令の明晟(めいせい)が自ら赴いて検死をした後、遺体を納棺した。誰もがその死が落雷によるものと疑わなかった。


それから半月あまり経って、突然、一人の男が殺人犯として捕らえられた。明晟は男を尋問した。


「お前は何のために火薬を買ったのだ?」


「鳥を撃つためです」


「雀を撃つくらいなら、せいぜい数銭(一銭は約3.7グラム)、多くても一両(一両は約37グラム)もあれば十分だろう。お前は二、三十斤(一斤は約600グラム)も買ったというではないか。何に使ったのだ?」


「後日、使うつもりで買いだめしたのです」


「お前が火薬を買ってからまだ一月も経っていないから、一、二斤くらいしか使っておるまい。残りの火薬はどこに保管してあるのだ?」


その途端、男の顔色が青ざめた。厳しく追及したところ、洗いざらい白状した。男は死んだ村人の妻と密通し、邪魔になった夫を落雷に見せかけて爆殺したのであった。村人の妻も捕らえられ、罪に服した。


ある人が明晟にたずねた。


「どうしてあの者が犯人だとわかったのでしょう?」


「火薬を使って雷と偽るためには、どうしても数十斤はいるだろう。また、調合には大量の硫黄(いおう)も必要だ。今は夏の盛りで、新年の爆竹を放つ季節ではない。硫黄を買う者は、ほとんどいない。私は密偵を街にやって硫黄を買った者がいないか調べさせると、ある火薬職人の名が挙がった。その職人に問いただしたところ、あの男に依頼されたことがわかったのだ」


「どうして雷が偽りだとわかったのです?」


「落雷が人を撃つ時には上から下に向かうが、地面に傷はつけない。家に落ちた時もそうだ。屋根は上からの衝撃で破壊されるのだ。それが今回は、草葺きの屋根がすべて吹き飛び、土間もまるで引き剥がしでもしたようにグチャグチャになっていた。これは爆発が下から上へ向かって起こったことを示している。またあの村は県城から五、六里ほどしか離れていないので、雷の状況はほとんど同じのはずだ。あの晩の雷は確かに激しかったが、空中で轟き渡っていただけでどこにも落ちていない。本来は妻を先に尋問するべきだったのだが、実家に戻っていて事情聴取ができなかった。そこで、まず、男の方を捕らえて尋問し、それから妻を尋問したのだ」


明晟の明察ぶりをたたえない者はなかった。



(清『閲微草堂筆記』)