豆腐

ある男、客をまねいて馳走したのだが、豆腐料理しか出さぬ。曰く、


「豆腐は私の命です。こんなに美味しいものはこの世にありませんわい」


しばらくして、その男が客の家に行くと、非常に歓待してくれた。客はちゃんと男の好みを覚えていて、魚肉を豆腐に混ぜた料理を出した。すると、この男、猛然と魚ばかりより分け、豆腐には目もくれない。客が、


「先だって、豆腐は我が命、などとおっしゃっておられたのに、どうして今日は豆腐を召し上がらないのです」


と言うと、男、魚肉をぱくつきながら一言。


「魚を見たら、命なんぞいらなくなりました」



(明『笑林』)