妻の貞操
遠方へ商売に出ていた男が数十年ぶりに帰郷した。男は妻が自分のいない間に不貞を働いたのではないかと疑った。そこで、村の外に身を隠して、夜になったらこっそり帰宅して、妻の貞操がどれほど堅いか確かめてみようとした。
夜更けに男は顔に泥を塗って、窓を破って自宅に忍び込んだ。そして、寝ていた妻に挑みかかった。妻はまさか相手が夫だとは思いもしないので、懸命になって拒んだ。夫は暴力に訴えてでも、妻に言うことをきかせようとした。妻はとっさに枕元に会ったはさみを取って、夫の急所を刺した。夫はその場に倒れて死んだ。
妻が灯りをつけて狼藉者の顔を見れば、何と夫ではないか。役所に自首して出た。
判決はこう下された。夫が顔に泥を塗り、他人の振りをして、妻を犯そうとしたのは、まさに常軌(じょうき)を逸している。妻は相手が夫であることはわからないので、身を守ろうとするのは当然である。妻の行為は貞操を守るためにしたことなのだから、罰するどころか、むしろ褒められるべきことである。
妻はその貞操の堅さを表彰された。
(清『虫鳴漫録』)