冥府の鏡

青城(四川省)の室園山の僧侶、彦先(げんせん)は有徳の僧侶として人々の尊崇を集めていた。しかし、彦先には秘密があった。彼はかつて戒律を破ったことがあった。


ある時、彦先は室園山を離れて蜀州へ向かった。その途中、天王院に泊まった夜、病でもないのに突然死んだ。



死んだ彦先は冥府の役所へ連れて行かれ、判官の前に引き出された。判官は彦先を尋問した。



「汝は生前、罪を犯したであろう。ありていに白状せよ」

しかし、彦先は自分が罪を犯したことを認めようとしない。すると、判官は彦先一本の豚の脚を与えた。彦先は、


「私は出家の身です。このようなものを受け取ることはできません」


と拒んだが、無理に押しつけられた。仕方なく受け取ると、豚の脚は手の中で一枚の鏡となった。のぞいてみると、自分の姿があり、過去に犯したすべての罪が歴然と映っていた。彦先は恐ろしさのあまりふるえ上がり、どうしてよいかわからなかった。


「これを肝に銘じて、二度と罪を犯してはならぬぞ」


判官はこう言い聞かせてから、彦先を現世に帰した。


生き返った彦先は、自分が冥府に行ったことを人々に話して聞かせた。しかし、己が犯した罪については何も話さなかった。



(五代『北夢瑣言』)