公孫聖
呉王夫差(ふさ)が大臣の公孫聖(こうそんせい)を理由もなく殺した。
後に呉は越に攻められ、夫差は敗走した。彼は側近の太宰[喜否](たいさいひ)に言った。
「昔、公孫聖を殺して死体を余杭山(よこうさん)の麓に捨てた。このまま行けば、そこを通らなければならない。わしは上は天をおそれ、下は地に恥じ入る。足を挙げるのだが、前に進むことができない。どうしてもできないのだ。わしの代わりに前へ行って、公孫聖に呼びかけてくれまいか。もしいるのなら、きっと返事があろうから」
太宰[喜否]が余杭山に向かって、
「公孫聖!」
と呼びかけると、果たして、
「いるぞ」
と答える声があった。三度呼びかけて、三度とも返事があった。夫差はおそれおののき、天を仰いで嘆いた。
「天よ、天よ! わしが生きて戻ることはあるまい」
果たして、夫差は死に、戻ることはなかった。
(六朝『冤魂志』)
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