幽霊屋敷

献県(河北省)の東にある淮鎮(わいちん)に、馬氏が住んでいた。この馬氏の家で、ある日、突然、奇妙なことが起こるようになった。石や瓦が投げ込まれたり、不気味なすすり泣きが聞こえたり、誰もいないところから火が出たり、という奇怪な現象が一年あまりも続いた。祈祷をしたが、何の効果もなく、馬氏はよそに家を買って逃げてしまった。しかし、新しい住人になってからも奇怪な現象は続き、音を上げてすぐに出て行ってしまった。


馬氏の旧宅は幽霊屋敷の評判が立ち、ついには借り手もつかなくなった。


しばらくして、年老いた儒学者が、


「幽霊なぞ、いるわけがない」

と、安値でこの家を買い取った。吉日を選んで移り住んだところ、ぴたりと奇怪な現象はやんだ。人々は、


「先生の人徳が幽霊を追い払った」


と感心した。


ほどなくして、泥棒がこの家を訪れて、老儒学者と言い争った。その会話から、今までの奇怪な現象はすべて老儒学者がこの泥棒をやとってやらせていたことが知れた。



(清『閲微草堂筆記』)