消えた死体

ある老人が車で崇文門(すうぶんもん)から北京に入ろうとしたところ、城門に着く前に頓死してしまった。御者が知らずに城門を通り抜けようとすると、番兵が老人の死体を見つけた。御者は殺人の疑いで捕らえられた。


すでに日も暮れていたので、死体は翌日、検屍することになり、車に乗せて城門の番所に置いておいた。夜中に見に行くと、車はあったが、老人の死体は消えていた。あわてて周囲を探したのだが、死体はどこにも見当たらなかった。番兵達は職務怠慢でとがめられることを恐れた。


番兵の一人が、

「ついこの前、仮埋葬された死体があるぞ。それを盗んできてはどうか」


と言ったので、夜陰に乗じて死体を盗み、車の中に置いた。


翌日、検屍役人が死体の検分に来た。死体の辮髪をほどくと、脳天に三寸ばかりの釘が打ち込まれていた。御者は乗客を殺した罪で死刑に処せられることとなった。


数日後、死んだはずの老人が出頭してきた。

「あの日は急に具合が悪くなって、気を失ってしまったんですわ。目が覚めたら、三更(夜中の十二時頃)を過ぎていたので、ごあいさつもせずに歩いて帰ったんです。御者がわしを殺した罪で死刑になると聞いて、こうしてすっ飛んでまいりました」


御者に確かめてみると、確かに乗せた客だという。これで容疑は晴れたのだが、新たな謎が生じた。車中の死体は一体、誰のものなのか。


さすがに番兵達も隠しておけず、死体が消えたので、別の死体を盗んできたことを白状した。死体を仮埋葬したのは、若い女であった。はじめは死体のことなど知らぬ存ぜぬの一点張りであったが、厳しく取り調べられて洗いざらい白状した。死体は女の夫であった。女は愛人と共謀して、夜中に夫の脳天に釘を打ち込んで殺したのであった。


夫殺しで女と愛人は捕らえられた。番兵達は死体を盗んだことを叱責されたが、殺人事件を明らかにしたことで、ほうびを賜わった。



(清『夜譚随録』)