賢い下女

都でも有数の資産家が、数年前から昌平(しょうへい)州(北京近郊)出身の下女を雇っていた。下女はたいそう賢く、よく主人の意を汲んだ。そのため、夫人はすっかり気に入り、財産の隠し場所を教えて、その管理を任せるほどであった。


ある夜、主人が不在の折の三更(夜十二時頃)を回った頃、六人組の盗賊が押し入った。皆、顔に墨を塗り、刀を持っていた。使用人達は恐れて、皆、逃げ散ったのだが、この下女だけが隠れていたところから飛び出して、盗賊に捕まってしまった。


盗賊の頭目は下女の首筋に刀を突きつけてたずねた。


「お前の主人はどこにいる?」


「今日は宿直で、まだ帰っておりません」


頭目は手下に命令した。


「奥方を縛って、連れて来い」


下女は跪いて泣きながら、懇願した。


「奥様はたいそう私によくして下さいます。それだけはお許し下さい。私が身代わりになりますから」


「そうか。ならば、財宝のありかを教えろ」


下女はハッとして口ごもった。すると、頭目は刀をふりあげて、今にも下女を斬り倒しそうなそぶりを見せた。下女は震えあがり、


「言います、言いますからお許し下さい」


と言って、財産のありかを教えた。盗賊は財産を運び出してきたのだが、まだ、足らないようであった。また、下女に刀を突きつけて、ほかの貴重品のありかを聞き出した。盗賊はそれらを運び出してから、


「ふん、まだ、隠しているようだな。しかし、お前さんの忠義の心を汲んで、許してやろう」


と笑って言って、引き上げた。夫人は下女が自分の身代わりになろうとしたことを恩義に感じ、ねぎらいの言葉をかけた。下女は顔を土気色にして、


「こわかった、こわかった……」


と言うばかりであった。


翌朝、主人が帰宅し、事件の一部始終を聞いて下女をねぎらったのだが、ふと、疑惑が生じた。日頃、あれほど気の利く下女が、盗賊に脅されたとはいえ、どうして財産のありかを話してしまったのだろう。しかも、あの非常事態で、すべての財産のありかを思い出せたのだろうか? 何より、使用人はほかにもたくさんいたのに、どうしてこの下女を捕らえたのか? 考えれば考えるほど、疑惑はふくらむばかりであった。


事件の三日後、下女は突然、暇乞いをした。


「あれ以来、体がすぐれません」


というのが理由であった。主人はこれにほうびを与え、暇を出した。その際、下僕にひそかに下女のあとをつけるよう命じた。


下女は主人の家を出る時には馬車で横になっていたのだが、斉化門(せいかもん)を出ると、すぐに馬車を返した。そして、別の馬車を雇って昌平に向かい、ある村で降りた。すると、数人の人相の悪い男達が笑いながら出迎えた。下女も笑って、連れ立って一軒の家に入っていった。


下僕は不審に思い、役所に駆け込んで役人に同行を求めた。すでに夜中であったが、家の中に突入すると、下女と男達が資産家から奪った財宝を分けているところであった。何と、下女は押し入った盗賊の一味だったのである。


こうして、盗賊は一網打尽となった。



(清『耳郵』)