呉淞の孫生

呉淞(ごしょう、上海付近)の孫生は十七歳で、絵に描いたような美少年であった。隣家にこれまた美しい娘が住んでおり、孫生とは人目を避けて冗談を言い合う仲であった。孫生はいつも一線を踏み越えたいと願っていたのだが、なかなかその機会を得られないでいた。


ある晩、隣家の母親がおまるの中身を捨てに、厠(かわや)へ行った。孫生はてっきり娘だと思って、いきなり抱きついた。見れば母親だったので、あわててその場から逃げ出した。


隣家の母親は孫生の行動を不審に思い、娘との仲を疑った。家に戻ると、娘を厳しく問いつめた。娘は疑われたことを恥じ、自室で首を吊った。母親が気づいた時には、すでにこと切れていた。母親は娘の死を嘆き、孫生を深く恨んだ。


翌日、母親は孫生を呼び出した。


「おたくとうちは財産も家柄も同じくらい、本当にうちの娘のことを好きなら、正式に縁談を申し込んでくれれば、それですむことでしょう。どうして、コソコソするのです」


そう言って家へ連れて行くと、娘の部屋に死体とともに閉じ込めた。そして、孫生に手籠めにされそうになって娘が首を吊った、と役所へ訴え出た。


娘の遺体と一つ部屋に閉じ込められた孫生は、もう助からないことを悟った。


「彼女とは何もしていないのに、僕は裁きを受けるんだ。これも前世の因縁か」


そう言って、我が身の不運を嘆いた。ふと、娘の遺体を見ると、まるで生きているかのようである。


「死者と交われば、その毒気を受けて死ねるという。彼女の毒気で死ねるのなら、本望だ」


孫生は娘の衣を解いて、交わった。その時、娘の体が次第に温かくなるのを感じた。かすかに息も通っている。どうやら孫生が体に触れたことで、生き返ったものと思われた。孫生が娘を助け起こすと、ぱっちりと目を見開いた。


そこへ母親が捕り手とともに飛び込んできた。母親は死んだはずの娘が孫生と向かい合って話しているのを見て驚いたが、無理矢理、孫生を役所へ引きずっていった。


孫生は厳罰を覚悟で、県令にすべて打ち明けた。県令は、


「これも前世の縁だろう」


と言って、二人を夫婦とさせた。 



(明『情史』)



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