史家塘
餘干(よかん、江西省)の北の街道沿いの史家塘(しかとう)というため池があった。深い緑色の水をたたえ、道行く人はしばしば足を止めて憩(いこ)い、その眺めを楽しんだ。
ある暑い夏の日のことであった。役人が妻妾を連れて史家塘を通りかかり、池のほとりで休息した。その中に若い妾がおり、池の眺めをたいそう気に入った。
その日はひどく暑かったので、若い妾は大胆にも靴下を脱ぎ捨て、池に下りて足を浸した。突然、妾が水の中へ引きずり込まれた。助ける暇もなく、妾の体は水中に沈んだ。
役人は近所の農家に人をやって水車を借りてこさせると、屈強な人夫を雇って数人がかりで池の水をくみ出した。底が見えるまで水をくみ出したのだが、妾の姿はなかった。
一行は一晩を池のほとりで過ごし、翌日、失意のまま出立した。
(宋『夷堅志』)
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