蘭陵坊の道士

昔々のことである。書簡を託された使者が蘭陵坊の西門を出たところで、一人の道士に出会った。


道士は身の丈二丈(当時の一丈は約3.1メートル)あまりで、黒いひげを垂らし、高い帽子をかぶっていた。


道士は従者を二人連れていた。どちらも黒い裙子(スカート)をはき、三角に髻を結い、身の丈は一丈あまりあった。二人は背に大きな甕(かめ)をかついでいた。


甕の中には数十人の子供がおり、泣いたり、笑ったりしながら、それぞれ遊びたわむれていた。


道士は使者に気づくと、二人の従者をふり返って、


「庵庵(あんあん)」


と言った。すると、従者は、


「納納(のうのう)」


と答えた。甕の中の子供達は声をそろえて、


「嘶嘶(せいせい)」


と言った。


道士達はそのまま西へ向かって走り去った。



(唐『河東紀』)