ある結婚の話

天津(てんしん)の卞(べん)なにがしは南方へ従軍して功績を立て、千総(せんそう、士官クラス)の位を得て、哨官(百人を率いる隊長)となった。忙しい軍務の中、休暇を取って帰郷し、華氏を娶った。


婚礼の夜、卞は華氏とともに寝室に入ったのだが、非常に疲れていたため、ろくに言葉も交わさないうちに眠ってしまった。


その晩、卞は不思議な夢を見た。長いひげを垂らし、黄色い衣を着た道士が、卞に一人の娘を引き合わせた。娘は髪を高く結い上げ、たいそう美しかった。道士は、


「今宵は吉日じゃ。婚儀をなすがよい」


と言って、二人に夫婦の礼を取らせると、寝台に送り込んで立ち去った。卞はぼんやりとしたまま、娘と契りを結んだ。


目が覚めると、すでに昼近くであった。華氏はすでに起きて身づくろいをすませていた。卞も新婚早々、寝坊をしていたら、他人に何と言われるかわからないので、急いで着物を着ると、華氏に声もかけずに出て行った。祝い客が大勢集まり、その応対に追われた。


昼食を食べ終わった時、突然、急使が出征の命令をもたらした。卞はそのまま華氏に別れを告げる間もなく湖南の戦場へ向かった。


賊軍の勢いは盛んで、官軍は苦戦を強いられた。休暇も与えられないまま、二年あまりが過ぎた。ある日、家から手紙で華氏が病床に臥せったことを知らせてきた。


卞は妻の病状が心配であったが、思わしくない戦況の中、休暇を取ることは許されなかった。ようやく帰宅することができたのは、二年後のことであった。帰宅した卞は華氏が前日に死んだことを知った。


卞は家を離れている間、妻が恋しくてたまらず、しばしば帰宅して妻と会う夢を見た。夢の中の妻は婚礼の晩の夢に現われた娘であった。二人は普通の夫婦のように、睦まじく語り合った。卞は四、五日に一度、必ず妻の夢を見た。


ほどなくして、卞は隣村の邵(しょう)氏を後添いに迎えた。婚礼の後で気づいたのだが、それは夢の中の妻にうり二つであった。邵氏も卞を不思議そうにじっと見つめていた。


「どうしてそんなにじろじろ見るのか?」


卞がたずねても、邵氏は恥ずかしがって答えなかった。うちとけた頃、邵氏は言った。


「以前、夢で長い髭をした道士様に連れられて、あなたにお会いしたことがあります」


その日時をたずねると、卞が華氏を娶った晩のことであった。邵氏はこうも言った。


「あなたとはよく夢でお会いしましたわ」

一か月後、卞は再び出征し、半年後に戦死した。後に邵氏は卞の子供を産み落とすと、操を守って一生を終えた。


卞と邵氏の結婚生活は一か月あまりに過ぎなかった。しかし、五年近くもの間、夢の中で夫婦として会い続けたのだから、不思議な話である。



(清『酔茶志怪』)



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