東晋の安帝の義煕(ぎき)年間(405 〜 418)のことである。琅[王邪](ろうや)郡(山東省)費県の王氏の家では、しばしば物が盗まれた。王氏
の主人は泥棒の仕業だと思い、戸締まりを厳重にしたが、それでも盗みはおさまらなかった。


しばらくして、主人は部屋のそばの垣根に穴が空いていることに気づいた。穴は人の腕が入るほどの幅があり、その内部は磨き上げたようになめらかで
あった。主人は怪しいと思い、穴に網を仕掛けておいた。


その夜、何かがごそごそと動く気配がして、網に落ちた。灯りで照らしてみると、それは一本の太い髪の毛であった。長さは三尺(当時の一尺は約24
センチ)あまりもあった。見ているうちに、髪の毛は蚯蚓(みみず)に変じた。


以後、物が盗まれることはなくなった。



(唐『広古今五行記』)