人妻失踪事件

四川(しせん)に器量がよい上に色っぽい人妻がいた。実家から婚家に一人で戻る途中、郊外で大雨に遭い、やむなく近くの寺で雨宿りをすることにした。年老いた住職と若い弟子が迎え出て、


「服を乾かしましょう」


と言って人妻を奥へ導き、二人がかりで手籠めにした。人妻もすこぶる淫蕩(いんとう)な性質で、喜んで二人の相手をした。しかし、人妻が若くて男ぶりのよい弟子の相手ばかりしようとしたため、嫉妬した住職は人妻を殺して死体を裏庭に埋めた。


翌日、婚家を訪ねた母は娘が帰宅していないことを知った。婚家の方でも実家が妻を隠していると思い、互いに訴え出た。この訴訟を、福建出身の林公が扱うことになった。林公が双方の言い分を聞く限りどちらもうそをついておらず、人妻は何かの事件に巻き込まれた可能性があると思われた。


たまたま林公の寵愛する門番が些細な罪を犯した。林公はその門番を呼び寄せて命じた。


「その方は罪を得てここを追い出されたことにして、村々を回って女の足取りを探れ。解決の糸口を見つけたら、罪を許してやろう」


門番は聞き込みを続けるうちに、郊外の寺にやって来た。門番は美男であったので、住職と弟子は争って関係を結んだ。ある日、小坊主の一人が、


「前に女の人が来た時もお師匠様はたいそう喜んでおられたよ」


と、口を滑らせた。門番は小坊主から詳しく聞き出そうとしたのだが、あまりよく知らないようであった。門番は林公のもとへ戻って報告した。


「すべてわかったぞ」


翌日、林公は焼香を理由に郊外の寺へ赴いた。林公は香を焚きながら、しきりに天を仰いでは、


「承知しております」


と答えた。すると、住職がさっと顔色を変えた。林公は住職を縛り上げさせた。


「天よりお告げがあったぞ、女を殺したのはその方であろう」


住職は観念して洗いざらい白状した。裏庭を掘り返したところ、人妻の死体が見つかった。林公は住職と弟子を殺し、事件は落着した。



(明『耳談類増』)