尼寺から逃げた男

尼寺に迷い込んだ男がいた。尼僧達は争って男と関係を結んだ。男もはじめのうちは楽しんでいたのだが、数日もすると家を恋しがるようになった。尼僧達は送別の宴にことよせて男を酔いつぶすと、家に帰れないよう頭をつるつるに剃ってしまった。


しかし、男は闇夜に乗じて家に逃げ帰り、妻にすべてを打ち明けた。妻は息子や嫁の笑いものになることを恐れ、夫の髪が伸びるまで寝室に隠すことにした。


ある時、息子の嫁が姑の部屋から男の話し声が聞こえることに気づいた。そっとのぞいてみると、姑が僧侶と睦まじく話している。嫁は夫にこのことを話した。息子は母が父の留守中、僧侶を寝室に引き入れて不義を働いている、と思った。


息子は刀を手にして、夜中に母の寝室に忍び込んだ。そして、枕辺を手で探ると、つるつるの頭に触れたので、力任せに斬りつけた。母が驚いて飛び起き、灯りをつけてみると、息子が血まみれの刀を手に立っているではないか。寝台は血の海で、夫はすでにこと切れていた。


母は息子が父を殺した、と訴えて出た。父であることを知らずに殺したことは仕方がないが、母の不義を疑ったことは許されない、ということで、有罪の判決が下った。



(明『情史』)