東光の娘
河北東光県のある男が村の娘とねんごろな仲になり、結婚の約束まで交わした。しかし、男は父親が決めた縁談で、隣村から妻を迎えることとなった。妻は男を愛し、男も妻を愛し、娘とは別れた。
ある日、男は村に出かけ、かつての恋人であった娘と再会した。娘は、
「新しいのを手に入れたら、お古は忘れてしまうのね。何て薄情な人」
と言って、男の隠しどころをつねった。娘が恨み言を並べ立てるので、男は言葉を尽くしてなだめた。
「最後にもう一度だけ」
娘が誘うので、男はあとについて行った。二人きりになると、娘は涙を流しながら、男の隠しどころをにぎった。
「あたしの宝物、これが今では他人のものなのね。ああ、恨めしい」
事が終わると、娘は枕の下から小刀を取り出して、男の一物をすっぱりと切り取った。男は驚いて逃げ去った。
娘は切り取った一物を刺繍の巾着に入れて、肌身離さず持ち歩いた。時折、取り出しては眺めたり、振ったり、頬ずりしてみたりするのであった。
一方、男は痛みをこらえて帰宅したが、かつての恋人に一物を切られたことを誰にも言わなかった。やがて傷口からおびただしく出血し、男は息を引き取った。
男の父親は息子が殺されたと、役所に訴え出た。役所では、捕り手に期限を切って犯人を逮捕するよう命令を下した。
捕り手の親戚が、村であめ売りをしていた。一軒の家の前を通りかかると、三、四人の娘達が遊んでいた。その中の一人が目を引くような美少女で、ほかの娘達から「お姉さん」と呼ばれていた。
「お姉さん、あたし達にあめを買ってちょうだい」
「そんなお金ないわ」
娘がそう答えると、
「そんなに巾着がふくらんでいるのに、お金がないだなんて変だわ」
と、娘達は不服そうに言った。そして、皆で娘から巾着を奪って開くと、腐臭が漂った。娘達は中身をつまみ出したが、何なのかわからなかった。
「お姉さん、腐った肉をどうする気? 食べられやしないのに」
と言って、投げ捨てた。娘は頬を赤らめ、慌てて拾い上げて、巾着にしまい込んだ。
一部始終を見ていたあめ売りは、このことを捕り手に告げ、捕り手は上役に報告した。娘を捕らえて調べると、自分を捨てた恋人の一物を切り取ったことを認めた。
(清『酔茶志怪』)
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