南海(広東省)の黄なにがしは質屋で出納係をしていた。妻は死刑執行人の娘であった。


まだ嫁ぐ前、胸の病による発作に苦しんだ。父親が人の肝と薬をまぜて飲ませたところ、痛みがおさまった。その後も発作に見舞われると、数日間、苦しみ叫んだ。父親は処刑を行なった時には、ひそかに刑場から人の肝を持ち帰り、娘に食べさせていた。娘はすっかり人の肝の味に慣れ、この世にこれほど美味なものはないと思うようになった。


父親は娘を溺愛していたので、その食膳に人の肝を出すようにした。嫁いでからも、こっそり届けていた。しかし、翌年、父が死に、人の肝を手に入れられなくなった。


黄の家では、二人の年若い下女を召し使っていた。年かさの方は十三、四歳で、幼い方はまだ十歳を越えたばかりであった。


ある日、妻は年かさの下女に言った。


「お前、髪がべたべたしてるよ。水を汲んできて、洗いなさいな」


下女は言われるままに水を汲み、髪を洗う用意をした。妻は幼い下女を市場へ買い物にやった。下女がたらいの前でうつむくと、妻は包丁でいきなり切りつけた。そして、下女の腹を割いて、肝を取り出した。


「肝がこんなにおいしいのだから、きっと肉もおいしいにちがいない」


そう思った妻は、下女の死体をばらばらにして、ほし肉を作った。そこへ幼い下女が市場から戻ってきて、恐ろしい現場を見てしまった。妻は包丁をつきつけて、おどかした。


「一言でも人にしゃべったら、お前を食っちまうからね」


夜陰にまぎれて、下女の頭や手足、内臓を河に沈めたのだが、翌日には浮かびあがった。


近隣では、黄の家の年かさの下女の姿が前日から見えないことを不審に思っていたので、すぐに死体が下女のものではないかと疑った。皆で黄の家へ行ってみると、扉が固く閉じられている。屋根に登って中をうかがうと、妻が食卓に向かって肉を食べているところであった。


妻がうっとりした様子でこう言うのが聞こえた。


「人の肉はおいしいねえ。おいしいのは肝だけじゃないんだ」


皆は驚き、急いで夫の黄と下女の両親にこのことを告げた。そして、役所に訴えて出ようとしたのだが、黄が近隣と下女の両親に金をつかませて、


「どうか内密に」


と哀願したので、それまでとなった。



(清『香飲楼賓談』)