独角

独角は巴郡(はぐん、四川省)の人である。数百歳になると思われたが、その名前はすっかり忘れ去られていた。


頭のてっぺんに角が一本生えていることから、独角(どくかく)と呼ばれていた。


独角は何年もの間、姿を消していたかと思うとふらりと舞い戻ってきたり、数十日も口を利かなかったりすることもあった。独角の話は難しくて完全に理解することはできなかったが、人々を教え導く効果があった。


ある朝、独角は家族に別れを告げて、家の前の河に入ると、一匹の鯉に変じた。鯉の頭には角があった。


その後も時折、家に戻ってきたが、その様子は普段と変わりなかった。子や孫達とともに食事をして酒を飲んで数日を過ごし、またどこかへふらりと立ち去った。



六朝『祖冲之述異記』)



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