雷神

鉛山(えんざん、江西省)の男が美しい女に思いを寄せた。しかし、女には夫があり、容易にはなびかなかった。


ある時、女の夫が病気になった。大雨が降り、昼間でも暗い日であった。男は派手な模様の着物に作り物の翼を着け、雷神の装いをした。そして、女の家に行って鉄槌をふるって夫を打ち殺すと、翼を広げて外へ飛び出した。その姿を見た人々は女の夫が雷に打たれて死んだものと思って怪しまなかった。


男はしばらく時間を置いて、寡婦となった女に結婚を申し込んだ。女は承諾し、晴れて夫婦となった。夫婦仲は睦まじく、一子にも恵まれた。


ある日、激しい雷雨に見舞われ、昼間だというのに薄暗くなった。男は妻とくつろいで思い出話をするうちに、前夫を殺したことに触れた。


「ああしなければ、お前と一緒になることはできなかっただろうなあ」


「その着物は今でもありますか?」


妻に笑顔でたずねられて、男は、


「ここにある」


と言って、箱から取り出して見せた。妻はじっとそれを見つめて、


「本当のことなのですね」


と言った。


妻は男が外出するのを待って、雷神の衣装を持って役所に駆け込み、男が前夫を殺した、と訴えた。男は捕らえられて死罪になった。



(明『情史』)