葉薦の妻

台州浙江省)の司法、葉薦(しょうせん)の妻は嫉妬深く、残忍な性格をしていた。小間使いや下女に少しでも器量のよい者があれば、必ずむち打って痛めつけた。時には死に至らしめることもあったが、葉には止めることができなかった。


夫婦には子供がなく、葉は常々、妻にこう言っていた。


「わしも六十だ。この年になって、女色を求めようとは思わぬ。しかし、このまま子がないのは困る。妾を置いて、跡継ぎを儲けようと思うのだが、どうだろうか」


すると、決まって妻はこう答えるのであった。


「しばらく待ってちょうだい。あと何年かすれば、私にも子供ができるかもしれないわ」


しかし、何年経っても子供が生まれる気配はなく、妻も妾を置くことを承知するしかなかった。妾を置くことに決めると、妻は同じ家に住むことを拒んだ。


「よそに家を建ててください。そこで仏門に入ります」


葉は喜んで山の裏手に家を建て、妻を住まわせた。


以来、家人が朝晩、ご機嫌うかがいに出向き、食事の支度をした。妻は以前とは打って変わっておだやかになったので、葉も安心した。


ある日、葉は新たに迎えた妾に妻の様子を見に行かせた。妾は出かけたきり、夕暮れになっても戻ってこなかった。心配になった葉は杖を手に、妻の住まいへ向かった。


住まいの門は堅く閉ざされ、ひっそりと静まり返っていた。下僕に命じて門を打ち破らせると、虎と化した妻が妾の上に覆いかぶさってその体を食らっていた。妾の体はほとんど食い尽くされ、頭と足を残すだけであった。


葉と下僕は急いで戻ると、人手を集め、松明(たいまつ)をかかげて妻の住まいへ向かった。住まいはもぬけの殻であった。



(宋『夷堅志』)