蕭家のお嬢様

饒州(じょうしゅう、江西省)の連少連は独り身で、母と貧しい暮らしを送っていた。ようやく、金持ちの家の住み込みの家庭教師の職にありついた。


ある晩、紫色の衣を着た老婆が現われて、こう言った。


「あなたによい縁談を持ってきてあげましたよ。東隣のお金持ちの蕭(しょう)家にとても美しいお嬢様がおられます。そのお嬢様があなたに恋い焦がれたあげく、とうとう病気になってしまいました。ご両親はお嬢様を不憫(ふびん)に思われて、この婆めに媒人(なこうど)役をお申しつけになったのです」


少連は突然の話に驚いた。


「結婚は人生の大事です。母に相談してからでないと、お返事できません」


「こんなによい縁談はめったにありませんよ。何をぐずぐずしているのです。あなたのような方がまじめに働いたところで、自分一人の力で身代を築けるわけありませんからね」


老婆にそう言われて、自分の一存で承諾した。


しばらくすると、二人の小間使いが褥(しとね)を運び込んだ。すべて錦で、金銀珠玉の縫い取りをほどこしてあり、その価値は計り知れなかった。


やがて楽の音とともに花嫁の轎(かご)が到着した。緑色の幟(のぼり)ときらびやかな天蓋(てんがい)や扇の取り囲む中、若い女が轎(かご)からしずしずと降りてきた。まさしく絶世の美女であった。少連と美女は婚礼の後、寝床を共にした。少連が美女を抱き寄せようと近づいたところ、美女の両脇から牛のようなにおいがするではないか。


不審に思った少連は、飛び起きて叫んだ。


「このあたりには盗賊がたくさんいるぞ!」


そして、褥や宝玉の類をかき集めて、長持ちに収めた。そこへ羊の頭をした人が棍棒を引っさげて入ってくると、少連を怒鳴りつけた。


「秀才、無礼だぞ!」


突然、サッと風が吹いて灯りが消え、美女も小間使い達もどこかへ逃げ去った。少連があたりを見回すと、月明かりが照らす中、召し使っている侍童がぐっすり寝ているだけであった。


少連は灯りをつけて長持ちを開けると、先ほど収めた褥や宝玉がなくなっていただけでなく、もともと入れてあった古い布団や着物、書物もすべてなくなっていた。


翌日、少連はこのことを主人に告げに行った。主人は少連の話に驚いていたが、思い出したようにこう言った。


「先祖を祭るために、祠(ほこら)の裏に大きな牛と羊を一頭ずつつないでおりますが」


少連が見に行くと、牛と羊がつながれていた。気のせいか、牛は頬を染めて恥じらい、羊はニヤニヤ笑っているように見えた。



(清『松[竹+均]閣鈔異』)