下男と下女
建徳(浙江省)の虞敬(ろけい)という人が厠に入ると、草を手渡す者があった。不思議なことにその者の姿は見えなかった。このようなことが一度だけでなく、たびたびあった。
ある時、虞敬はいつものように厠に入ったのだが、誰も草を渡す者がない。しばらく待っていると、扉の外で人の争う声が聞こえた。
「邪魔だ! 離せ」
扉のすき間から見ると、最近死んだ下男と下女が自分が虞敬に草を渡そうと争っていた。
「おどき、あたしが渡すんだから!」
下男が前に出ようとするのを、下女は後ろから殴りつけて行かせまいとした。虞敬は外に出たいのだが、二人の決着はなかなかつかないようであった。虞敬が叱りつけると、二人の姿はぱっと消えた。
以来、下男と下女は二度と現われなかった。
(六朝『幽明録』)