ふぐ

ふぐは体に虎のような斑(ぶち)がある。世間では生煮えを食べると必ず死ぬ、と言われている。


饒州(じょうしゅう、江西省)の呉生の家は裕福で、妻の実家も裕福であった。夫婦仲は睦まじく、喧嘩をしたことは一度もなかった。


ある日、呉生は酔っ払って帰宅し、そのまま寝床に横になった。妻が履(くつ)を脱がせようと足を持ち上げた時、呉生が大きく寝返りを打った。そのはずみで妻の胸を蹴飛ばしてしまい、妻は打ちどころが悪くて死んだ。


妻の実家は呉生が妻を殴り殺した、と訴えた。訴訟は一年にも及び、州や郡でも決着をつけることができず、後は皇帝の直々の沙汰を待つばかりとなった。


呉生の親族は罪を逃れられないことを知ると、身内から犯罪者を出すことを恥じた。そこで、呉生に生のふぐを食わせて殺そうとした。ふぐを食わせること四度に及んだが、呉生の身には何も起こらなかった。それどころか、かえって滋養をつけて元気になるばかりであった。


それからしばらくして恩赦が降り、呉生は釈放された。


呉生は八十歳まで長生きし、子孫も繁栄した。



(五代『録異記』)