美人画の怪

王なにがしの居室はいつも掃き清められ、趣味のよい調度が並んでいた。枕元には一幅の美人画がかけられていたが、これが見事な出来ばえで、今にも画中から美女が抜け出してきそうであった。


王が外出した晩、妻が一人で灯りに向かっていると、帳の紐の影が画中の美人の項(うなじ)にかかり、まるで首吊りの縄のように見えた。妻がじっと見ている目の前で、美人が紙から抜け出し、首に紐の影をかけたままクルクルと回り出した。


妻はこわくなって悲鳴を上げた。そこへ王が戻ってきた。妻から事情を聞いた王は画を燃やした。


数日後、王の夢に画の美人が現われた。美人は王をなじった。


「退屈だから、鞦韆(ブランコ)遊びをしていただけよ。あんた達に迷惑をかけたわけでもないのに、どうしてあたしを燃やしたのよ。必ず仕返しをしてやるからね」


そして、細腕で王の首を締め上げた。王は驚いて目を覚ました。


王はしばらくして病で死んだ。



(清『酔茶志怪』)



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