鸚鵡の告発

長安の楊崇義(ようすうぎ)は先祖代々の富豪であった。その豪奢な暮らしぶりは、王侯をもしのぐものがあった。崇義の妻劉氏は類まれな美女であった。劉氏は隣家の李掩(りえん)と密通していた。劉氏はいつしか李掩と離れられなくなり、邪魔な夫を殺してしまおうと機会をうかがっていた。


ある日、崇義は酔って帰り、そのまま寝てしまった。劉氏は李掩とともに崇義を殺し、その死体を古井戸に捨てた。目撃者は一人もいなかった。ただ、部屋の入り口の止まり木に、崇義の可愛がっていた鸚鵡(おうむ)が止まっているだけであった。


頃合いを見計らって、劉氏は崇義が帰宅しない、と騒ぎ立て、下僕に心当たりを捜させた。そして、役所に捜索願を出した。役所では崇義が長安屈指の富豪であることから、金目当てに殺された可能性があるとして、前科者や、以前働いていた使用人達を片っ端から逮捕して、厳しく取り調べた。調べられた人間は百人あまりにものぼった。


しばらくして、役人が検分のため、崇義の邸を訪れた。崇義の部屋へ行くと、入り口に一羽の鸚鵡がいた。鸚鵡は役人を見ると、


「不当だ、不当だ!」


とさえずった。役人は鸚鵡を自分の腕に止まらせて、一体どういうことか、とたずねた。すると、鸚鵡は、


「旦那様を殺したのは、奥方の劉氏と隣の李掩です」


と言った。劉氏と李掩を捕らえて厳しく詮議したところ、崇義殺害を認めた。劉氏と李掩は死刑に処せられた。


この事件は、玄宗の耳にも届いた。玄宗は鸚鵡を宮中で飼うこととし、


「緑衣使者」という称号を与えた。



(五代『開元天宝遺事)