銭がこわい

南朝宋の大明三年(459)に、王瑤(おうよう)が都で死んだ。王瑤の死後、家には幽鬼が現われるようになった。


それはひょろ長くて色が黒く、肌脱ぎに犢鼻褌(とくびこん、ふんどしの一種)を締め、いつも家に来ては歌ったり、人の口まねをしたりした。それだけならよいのだが、しばしば料理の中に糞やごみを放り込み、時には東隣のユ家にまで同じような悪さをした。


ある時、ユは幽鬼に言った。


「土くれや石ころを投げられても、ちっともこわくないさ。銭をぶつけられたら、話は別だけどな」


すると幽鬼は新銭を数十枚、ユの額に投げつけてきた。ユは、


「新銭なんざ、痛くもないさ。おれがこわいのは、古い銭だけだよ」


幽鬼は古い銭を投げつけた。


「わあ、痛い、痛い、やめてくれ」


ユが苦しむふりをすると、幽鬼はそれを真に受けて、六、七回も銭を投げつけた。おかげで、ユは百銭あまりをもうけたのであった。



六朝『祖沖之述異記』)