明の萬暦二十六年(1598)、副総兵訒子龍(とうしりょう)は、日本に攻められた朝鮮を救援するために水軍を率いてかの地に赴いた。子龍は歴戦のつわもので、齡七十を越えながら意気はなはだ軒昂(けんこう)、必ずや戦功を立てんと張り切っていた。


国境を流れる鴨緑江(おうりょくこう)を渡る時、舟の舳先(へさき)に何かがぶつかった。すくい上げてみると、それは沈香(じんこう)の木片であった。人の頭くらいの大きさである。子龍はしばらくその香木を手にとって思案していたが、


「まるで人の頭のようだ。大事にしまっておこう」


そう言っておさめさせた。


以来、子龍は不思議な夢を見るようになった。それは自分の拾った香木と人の首が向き合ったり並んだりして、ついには一つになってしまうというものであった。


子龍は釜山(プサン)沖の海戦で壮烈な戦死を遂げた。その屍には首がなかった。帰国後、子龍の拾った香木をその顔に似せて刻み、ともに葬った。



(清『北游録』)