閙房

婚礼の夜、親戚や友人が新婚夫婦の寝室に集まって騒ぐ。夫婦をひやかして深夜まで騒ぐのだが、ひどい時には明け方まで騒いで、新婚夫婦を二人きりにさせないこともある。これを「閙房(どうぼう)」という。江蘇、浙江地域で広く行われ、嶺南(れいなん、広東・広西地域)がもっとも盛んであった。


こうして騒ぐのは、花嫁が美しいかどうか見るためである。花嫁の容姿が並ならば、ただ飲んでひやかすだけ。下ならば、一目見てさっさと退散する。花嫁が美しい時は大変である。皆、夜通し居坐って、口にするのもはばかられるような言葉でからかう。


周なにがしの婚礼の夜、友人五、六人が寝室に押しかけた。花嫁がたいそう美しかったため、友人は周をひやかしてしこたま酒を飲ませた。周が酔いつぶれると、手足を縛り上げて、さらに布団でぐるぐる巻きにした。それを担ぎ上げて、銅鑼(どら)や太鼓を打ち鳴らしながら、街を練り歩いた。夜中に戻って来て、周を布団ごと寝台の上に放り出した。この時、花嫁はまだ衣装を解かず、じっと坐ったままであった。


翌朝、友人達が寝室の扉を開けて中をのぞいた。周が布団に巻かれたままだったので、あわてて布団をほどくと、周の頭がなくなっていた。大騒ぎになり、花嫁と友人達が容疑者として捕らえられた。厳しい取り調べを受けたが、真実はわからなかった。数年後、容疑者全員が獄中で死に、事件の調査は終わった。



金なにがしが妻を娶った。友人達が金を縛り上げて、裏の竹林に転がしておいた。そして、寝室に居坐って、花嫁に酌をさせて酒を飲みながら、遊戯に興じた。

金の母親が、息子が夜露に当たって風邪を引いては、と心配して、灯りを手に竹林に様子を見に行った。いくら呼んでも返事がなく、姿も見えない。竹林には血のあとが点々と残っているだけであった。


この地には虎が多く、金の家は山に囲まれていた。おそらく虎が垣根を越えて入ってきて、縛られていた金をくわえ去ったのだろう。



(清『夢廠雑著』)



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