王季徳の棺
王季徳(おうきとく)は平江(へいこう)府(江蘇省)に赴任して一か月で死去した。部下達が金を出し合って棺を用意した。いざ納棺しようとすると、突然、死体がふくれ上がって納めることができなくなった。
この怪異な現象に皆が首をひねっていると、王季徳の息子が泣きながら告げた。
「実は父は早くに自分のために立派な棺を用意しておりました。家にいた時、少しでも具合が悪くなると、棺に横になり、そのまま二、三日過ごすこともざらでした。この棺をたいそう気に入っており、いつもうれしそうに撫でさすっておりました。今、この棺は震澤(しんたく、江蘇省)の下僕の家に預けてあります。きっと、父は自分が用意した棺に入りたくて、このような怪異を現わしているのでしょう。今すぐ舟で取りに行けば、二日もかからないと思います」
そこで、杯[王交](はいこう、どぶ貝の殻を二枚投げる占い)で占ったところ、そうせよ、とのお告げが下り、死体はもとに戻った。翌朝、棺が届き、無事に納棺をすませた。
この直後、大夫の郭雲(かくうん)が急死した。その遺族は五十万で王季徳の新しい棺を買い、葬儀をすませたという。
(宋『夷堅志』)
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