丹陽の虎

丹陽(たんよう、江蘇省)の沈宗(しんそう)は県城で占いを生業としていた。


義熙(ぎき)年間(405〜418)に、左将軍の檀侯(だんこう)が丹陽の姑孰(こじゅく)に駐屯した。檀侯は狩りを好み、特に虎狩りを盛んに行なった。


ある日、沈宗のもとを一人の男が訪れた。男は皮の袴(はかま)をはき、馬に乗っていた。従者を一人連れていたが、これも皮の袴をはいていた。男は紙に包んだ十枚あまりの銭を沈宗に差し出して言った。

「西に食を求めた方がよいか? それとも東の方がよいだろうか?」


沈宗が卦(け)を立てると、

「東に向かえば吉、西に向かえば利ならず」


と出た。男は沈宗に水を所望した。沈宗が水の入った瓶を持ってこさせると、男は瓶に口をつけてガブガブと、まるで牛のように飲んだ。水を飲み終えた男は沈宗に一礼して立ち去った。沈宗が外まで見送ると、男は東に向かって百歩ほど行ったところで従者ともども虎の姿となった。


これ以後、丹陽で虎が暴れることはなくなったという。



六朝『捜神後記』)



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