阿里瑪

清朝を開いた満洲族がまだ山海関の向こうにいた時の話である。 阿里瑪(アリマ)という猛将がいた。凄まじい怪力の持ち主で、盛京(せいけい、遼寧省瀋陽)の實勝寺で境内に置かれた石の獅子を軽々と持ち上げたという逸話の持ち主でもあった。この石の獅子は…

秘密

この不思議な話は順治(1644〜1661)初めのことであると聞いている。 某という人がいた。名前は忘れた。この某は妻と前後して亡くなり、その後、三、四年して、今度は妾が亡くなった。 それから間もなくして、某の家の使用人が夜出かけた。その帰り道、雨に…

子供の頃、犬を飼っていた。進宝と名付けていつも側においていた。塾に通うようになってからも進宝を連れて通った。 ある日、進宝を机の上に坐らせたまま勉強していると、進宝はじっと本をのぞき込み、私の読む声に耳を傾けているように見えた。時折、うなず…

震える手

蒋(しょう)太守が直隷(ちょくれい)の安州(河北省)で一人の老人と出会った。老人は常に両手を震わせており、その様は鈴を振る仕種に似ていた。初めは中風なのかと思ったが、その物言いははっきりしている。不思議に思った蒋太守は老人に手の震える理由…

狐に傭われた男

山東の[艸+呂](キョ)州東南に屋楼(おくろう)という山がある。その西北には択要(たくよう)という山があり、どちらの山にも狐がたくさん棲んでいた。 ここに棲む狐のある者は人に化けて町へ食料を買いに行くこともあったが、麓の住人はこういうことに…

提督の秘密

清の同治初年(1862)のことである。 安徽(あんき)の書生朱某は科挙に向けて勉強していたのだが、二十歳を過ぎても志を得られないでいた。 理想に燃えていた分、その落胆は大きくなるものである。朱は敗北感を払拭するかのように勉学を放棄すると、軍に身…