六朝

臨城県(安徽省)の南四十里に蓋山(がいさん)がある。その百歩あまりの所にが舒姑泉(じょこせん)がある。泉は清冽(せいれつ)な水を満々と湛えている。 昔、舒家に美しい娘がいた。ある日、父親とともにこの泉の周りに薪を拾いに来た。父娘は薪を拾い終…

夫婦成仙

樊(はん)夫人は上虞(じょうぐ、浙江省)の県令劉綱(りゅうこう)の妻であった。綱は道術の心得があり、鬼神を召喚することや、変化(へんげ)の術に通じていた。また、秘密の法術も修得していたが、それを知る人はいなかった。 綱はこの地を治めるに当た…

特殊能力

夏侯弘(かこうこう)は特殊能力を持っていた。彼は幽鬼を見ることができたのである。見るだけでなく、会話することもできた。もっとも、これは本人の言である。 ある時、鎮西将軍謝尚(しゃしょう)の馬が突然、死んでしまった。謝尚はこの馬をたいそう可愛…

童謡

由拳県(ゆうけんけん、浙江省東北部)に湖がある。晴れた日には水底に城壁に囲まれた街の姿を見ることができる。また、この湖の北六十里の伊莱山(いらいさん)の西南に神母廟がある。簡素な石室があるだけなのだが、廟の前の石には引っかいたような跡があ…

飛ぶ首

南方に「落頭民」というのがいる。その頭が胴から離れて飛ぶことからそう呼ばれている。 三国呉の時代のことである。南征中の将軍朱桓(しゅかん)が一人の婢女(はしため)を得た。すこぶる愛敬があり、朱将軍も憎からず思っていた。ある夜、朱将軍は遂にそ…

蛇退治

東越(福建省)に庸嶺(ようれい)という山がある。高さ数十里(当時の一里は約430メートル)、その西北に位置する沢の洞窟には一匹の大蛇が棲みつき、土地の人々は日夜恐れおののいて暮していた。長さ七、八丈(当時の一丈は約2.4メートル)、太さは十抱え…

髪切り

孫巌(そんがん)という挽歌(ばんか)の歌い手がいた。三年前に妻を娶ったのだが、どうしたわけか妻は寝る時に着物を脱がなかった。孫巌は怪しく思い、妻が眠り込むのをうかがって、ひそかに着物を脱がせると、長さ三尺(当時の一尺は約30センチ)ばかり…

長江の女

東晋の隆安(りゅうあん)年間(397〜402)のことである。 陳懐(ちんかい)という人が長江の岸辺に網を仕掛けておいた。潮が引くと、その仕掛け網に一人の女がかかっていた。背丈は六尺ほど、非常に美貌で身に一糸もまとっていなかった。水が引いたため動け…

南斉の武帝の御世(483〜493)のことである。 東山(江蘇省)の土中から不思議な物が掘り出された。形や色は人の唇に似て、その間から真っ赤な舌がのぞいていた。触ると妙な弾力があり、はなはだ気色が悪い。当地の役所を通じてこの不思議な物は帝に献上され…

紫姑神さま

紫姑神(しこしん)は民衆に広く信仰されている神である。言い伝えによるとある人の妾だったという。本妻に嫉妬され、いつも汚い仕事ばかりさせられていたが、あまりの辛さに耐えかねて正月の十五日に自ら死んでしまった。この薄命を哀れんだ人々は正月十五…

不死の酒

洞庭湖(湖南省)に君山という島がある。その最も高いところには数斗の美酒が秘められており、これを飲んだ者は死を免れるという。 漢の武帝はかつてこの不死の酒を入手したことがある。七日間の精進潔斎(しょうじんけっさい)の後、童男童女数十人を君山に…

螺亭

南康(なんこう、江西省)に、田螺(たにし)を採って暮らす女がいた。ある時、女は出かけて帰りが遅くなり、亭(あずまや)に泊まった。 その夜中、風が起こり、雷鳴がとどろいた。その音で目を覚ますと、近くで何かうごめく気配がする。その時、稲光が走り…

狐の名簿

呉郡に顧旃(こせん)という人がいた。狩りに出た時、ある丘を通りかかったところ、突然、人のぼやく声が聞こえてきた。 「やれやれ、今年はだめだなあ」 顧旃が仲間とともに辺りを探してみると、丘の頂上にたて穴を見つけた。古い塚のあとで、奥には一匹の…

取り替え子

陳素(ちんそ)という人は裕福であったが、妻を娶って十年になるというのに、いまだに子供に恵まれなかった。 人の勧めもあって後継ぎを儲けるために妾を入れることにした。それを知った妻が何とか子宝を授けてくれるよう先祖の霊廟に祈願したところ、めでた…

恋しくて

鉅鹿(河北省)に庖阿(ほうあ)という人がいた。惚れ惚れするような美男子で、多くの娘から思いを寄せられていた。ただ、庖阿には妻がいた。それも飛びっきり嫉妬深い妻が。 同じく鉅鹿に石という人が住んでいた。この人に娘がいたのだが、何かの折に庖阿の…

廬陵(ろりょう)郡(江西省)の巴邱(はきゅう)に陳済(ちんせい)という人がいた。州の官吏となり、妻の秦氏を残して単身赴任することになった。 陳済が任地へ赴いてからしばらくして、秦氏の前に一人の男が現われた。堂々たる美丈夫で立派な身なりをして…

紫玉

呉王夫差に紫玉という娘がいた。芳紀十八歳、才色兼備で、王は目に入れても痛くないほどの可愛がりようであった。 紫玉はふとしたことで韓重という美少年に思いを寄せた。密かに文をやり取りし、将来を誓い合う仲になった。重は当時十九歳で、斉魯地方(共に…

迦湿彌羅(カシミ−ル)王が一羽の鸞を買った。鳴き声を聞こうと思ったが、まったく鳴かない。そこで、金の籠に金の鎖でつなぎ、贅沢な餌を与え、その心をほぐして鳴かせようと試みた。しかし、一向に鳴く気配のないまま三年が過ぎた。 ある日、夫人が王に言…

東晋の隆安(りゅうあん)年間(397〜401)のことである。曲阿(きょくあ、江蘇省)の謝盛(しゃせい)が湖に舟を浮かべて、菱の実を採っていると、一匹の蛟(みずち)がこちらに向かって泳いで来るのが見えた。 謝盛は舟を操って逃げようとしたが、間に合わ…

紅い酒

北魏の孝昌(こうしょう)年間(525〜527)のことである。 虎賁(こほん、皇帝の護衛兵)に洛子淵(らくしえん)という者がいた。経歴は詳らかではないが、本人の言によると洛陽出身とのことであった。 この頃、子淵は彭城(ほうじょう、江蘇省徐州)に派遣…

歌う女

江巌(こうがん)という人がいた。いつも呉(江蘇省南部から浙江省北部)に薬草を採りに行っていた。 その江巌が富春県(浙江省)の清泉山の南に薬草を採りに行った時のことである。 薬草を求めて山道を歩いていると、どこからか歌声が聞こえてきた。言葉は…

晋の頃、信安(浙江省)に鄭徽(ていき)という人がいた。若かりし日に橋の上で一人の老人と出会った。老人は鄭徽に巾着を示して言った。 「これはお前の命だよ。くれぐれも失くさないようにな。中身が壊れたら、それは良くない徴(きざし)だよ」 老人は鄭…

八毒丸

李子豫(りしよ)は若い時から名医としての誉れが高かった。当時、その処方する薬で治らぬ病はないとまで言われていた。 豫州(河南省)刺史の許永の弟が奇病を患い、この十余年というもの原因不明の腹痛に苦しんでいた。どの医者に見せても一向に良くなる気…